Human Library®︎をヒントとして

冬の日の窓

デンマークでは人を本に見立てて「読者」に30分間貸し出すという、ヒューマンライブラリーという活動があります。
社会的マイノリティの人が自身の人生を30分だけ読者に話すというもので、2000年に野外音楽イベントの会場の片隅で始まったプログラムだったそうです。(現在もヒューマンライブラリー=人間図書館といっても、実際の建物があるわけではありません。「本」はボランティア参加です)性的少数者、障害者、元マフィア、移民等といった人たちから話を聴き、偏見や差別を解消し多様性社会の基盤を育むのが目的です。

他人がどんな視点、どんな立場で人生を生きているかを知る。批判や意見の押し付けはもちろんあってはならない。ただ話し、ただ聴くという、シンプルな対話の持つ力は計り知れません。一対一で向き合って話を聴いたら、もうその相手は「どこか知らない場所に暮らす知らない誰か」ではなくなります。

What is the Human Library?

The Human Library® is a global innovative and hands-on learning platform. We are embedded in high school to higher learning, medical training to civic engagement to better our understanding of diversity in order to help create more inclusive and cohesive communities across cultural, religious, social and ethnic differences.

ヒューマンライブラリーとは?(以下はわたしが訳したものです)
ヒューマンライブラリー®は、世界的な革新的かつ実践的学習プラットフォームです。文化、宗教、社会、民族の違いを超えて、より包括的で団結力のあるコミュニティの構築を支援するために、わたしたちは高校から高等教育、医療訓練、そして多様性への理解を深めるための市民参加活動に組み込まれています。

https://humanlibrary.org/about/

日本でもこの取り組みは大学等で実践されているそうです。日本人の書いたわかりやすい説明をご紹介します。

ヒューマンライブラリー(以下 HL)は,近年開催趣旨や手法が多様になってきてはいるものの,基本的には,障害をもっていたり人種的なマイノリティであったり,あるいは LGBT 等で偏見を受けやすい立場にある人が,自らの意思で「本」になり,仮想の「図書館」で貸し出されて「読者」と対話するイベントである。
(中略)

ちょっと不思議に思われるかもしれないが,HL という「図書館」で「本」になるという舞台設定によって,これまで会ったこともない「本」と「読者」の間に,いきなり,しかも自然に対話の場が生み出される。「本を傷つけないで下さい」というシンプルなルールのもとで,二人はそれぞれの役になる。初めて参加される「本」の方の中には,自分に何か意味のあることがしゃべれるだろうかという不安をもたれることもある。しかし,始まると口をついて話が出てくるという。HL では「本」は「読者」に向けて貸し出されるのではあるが,そこは「読者」のためだけの場ではない。「本」の方にとっても大切な対話の場なのである。

ヒューマンライブラリーという図書館 (横田雅弘)

このコンセプトに触れたとき、わたしの求めていることにつながるヒントだと確信しました。

事実より真実に触れたい

わたしは昔からあまり現実の出来事が記憶に定着しないタイプで、子どもの頃の思い出はわずかです。
同級生の顔と名前もひと握りの友達をのぞいてきれいさっぱり忘れています。(もうしわけない)
他人の言動に至っては、よほど自分がショックを受けたりしたのでもない限りほとんど憶えおらず、「人に興味がない」とよく言われます。実際、そうだろうと思います。ひと様の社会的地位や業績、それにともなう一般的な評価、ゴシップなどには関心が持てません。そういう意味での興味は持てないのはたしかです。

しかし、本人または近しい人の口から語られた人生の一コマなどのエピソードはたいへんよく記憶しています。

父親が戦争から復員してきたことよりも持ちかえってきた一握りのお砂糖が嬉しかったとか(うちの母の話)、関東大震災のときには家の裏の竹藪に逃げ込んだとか(祖父の話)、高知の父方実家では嫁とその娘には人権がなく土間で食事をさせられるとか(平成ですよ?!友人の話)、ボーナスでまとめ買いした高価な基礎化粧品のセットをすべて空き巣に持ってゆかれた(知人の話)、そういうことは非常によく憶えています。

思うに、そうやって本人の口から語られたエピソードは、人生を構成する要素のひとかけらでgenuineなものだからかもしれません。語ることとしてその話題を選んだからには、本人にとり重要で印象的な出来事なわけですよね。そういう事柄にしか、わたしは興味がないんです。事実より真実に触れたい気持ちが強いのです。

なぜか記憶に残っていることを聴かせてほしい

記憶に残る日常のエピソードを聴かせてほしい。30分間、ただ話してもらうだけでわたしは聴くだけという企画をいつかやりたい。そんな気持ちが熾火のように心にあります。

HumanLibrary®️とは目的において似ても似つかないのは承知しています。あくまでヒントになったというだけのことなので、導入にHumanLibrary®️を持ってくること自体がミスリードでよろしくなかったかもしれません。が、人を本に見立てるという点が「まさに!」としっくりきたので、思わず使わせてもらいました。

「いつかやりたい」と書いたのは、自分の未熟さを実感しているからです。
現時点でのわたし自身のありようは、人さまの大切な話を聴かせてもらうに相応しくはないという自覚があります。心とありようがもう少し整ったら、最初にモニターを募り、徐々に展開したいと考えています。

現時点で「30分間、話してやってもいいぞ」という方がいらしたらお声がけいただけたら嬉しいです。