エプロンを縫う

バイオレットカラーのリネン

気にいるエプロンが売っていない。かれこれ15年はエプロンを買っていない。
たかがエプロンという勿れ。色柄、素材、デザイン、肩紐のスタイルなど、けっこう大事なのだ。これらの各要素のうちひとつでも気に入らなければ購入を見送る。そうするうちに15年以上経ってしまった。

黒いエプロン

ほぼすべてが申し分ないエプロンに30歳前に出会い、それをずっと大事にしてきた。惜しむらくは、そのエプロンが「法事や弔事の裏方として働く時のために特化した黒い化繊のエプロン」だという点だ。母から渡されたもので、自分で買ったわけではない。
ブラックフォーマルのワンピースと真珠で装いながらも、裏方として台所で働かざるを得ない女性のしんどさよ。悲しむことや悼むことにだけ時間と心を割くことが許されない。あらゆる場において全てのケア労働を女性に押し付け、それを当然とみなす悪しき家父長制が黒いエプロンを生み出したとも言えよう。気にいらん!

ついルサンチマンが噴出してしまった。
閑話休題。
色と素材と哲学はともかく、このエプロンはデザインやサイズ感は申し分ない。
そこで、この黒いエプロンを基にした型紙(パターン)を起こした。爾来、わたしはエプロンを自作している。

エプロンの基本デザイン

エプロンは、本体・肩紐・腰紐の3つの大きなパーツで出来ている。
胸までカバーできるものが主流だ。ウエストから下だけのものはギャルソンエプロンという。肩紐を背中でクロスさせるタイプ、首にかけるタイプもあれば、肩紐と腰紐が一体化しているものもある。(ハト目やループをウエストの左右につけ、背中でクロスさせた肩紐をそこにくぐらせて腰でしばるスタイル)
カジュアルでよければ、肩紐と腰紐は綿テープ等別な素材にするのもありだ。

本体にはポケット、見返しがつく。
ポケットがあるほうがなにかと便利だ。調理中に輪ゴムを入れたりミトンを突っ込んだりできる。
パーツが少ないので、共布で肩紐と腰紐を作ったとしても、洋裁上級者なら半日もあれば作れる。

濃い茄子紺色のリネンのエプロンを裏から撮影した画像
エプロンを裏からみたところ。上部に見返しをつけ、脇はバイアステープで処理

エプロンとていい布を使う

さて、わたしにとって、エプロンはイヤイヤ着けるものではない。服の汚れを防ぐため積極的に着けている。加えて、調理と掃除が好きなので長時間身につけている。だから着心地が最優先となる。

となると、いい布を使いたい。
「どうせ汚れるから」という理由で適当な生地や安物の生地で作ると、地味にストレスが溜まる。安い布は日暮里(にっぽり)繊維問屋街などでいくらでも売っているが、最初から安い布は扱いにくい。裁断と縫製の段階でイライラすることになる。布目が歪んでいたり、プリントが布目とはズレていたり、うちこみが甘くて際断面からボロボロ解けてしまったりする。なにより、仕上がりが安っぽい。

せっかく自分で縫うのだからいい布を使おうよ!

ということで今回は ¥2,500/mの日本製リネンで作った。これはヨーロッパ産のリネンを日本で織りと染めをした生地で、緻密な織りが美しい。縫いやすく、仕上がりもたいへん上等な印象になった。
薄手で軽く、麻ならではの通気性があって身につけていて実にここちよい。これまで使っていた化繊混じりのエプロンは、通気性が悪くて若干重かったのだと気がついた。今度のエプロンは、夏の暑くて熱い台所仕事のいい相棒となってくれそうで嬉しい。

バイオレットカラーのリネン
うちゅくしい✨

縫いものをきれいに仕上げるコツ

わたしはあまり器用ではない。下手の横好きであれこれ縫いちらかしているだけで、どちらかといえば不器用なほうだ。不器用ゆえに、縫いものをきれいに仕上げるコツを真面目に守っている。

わたしが守っているコツは主にこの七つ。

  1. 歪んでいる布なら最初に地直しをする
  2. 縫い糸は生地と同系色で生地より濃い色を使う
  3. 表から見える箇所のステッチ幅を揃える
  4. 各工程でアイロンをこまめにかける
  5. 角(かど)は目打ちなどをつかってパターン通りの形に整える
  6. 道具をフル活用する
  7. 間違えたりステッチが曲がったりしたら必ずほどいてやりなおす
職業用ミシン用の押さえ金。三巻押さえ
三巻き用の押さえ金
職業用ミシン用の押さえ金。コバステッチ用
コバステッチ用の押さえ金

道具をフル活用するのは心からおすすめしたい。
職業用ミシンは専用のアタッチメントが充実している。布端を5mm以下の三巻き(みつまき)で仕上げるためのアタッチメントや、端ミシン(コバステッチともいう)を同じ幅でかけるためのアタッチメントなどがある。いちど買えばずっと使えるので、ここはケチらずに購入して使ってみて欲しい。

使うよろこびを味わうために

そして、なによりも大事なのは、間違えたり歪んだりしたらほどいてやり直すことだ。

みなかったふりをしたり、辻褄合わせを適当にやっつけて完成させたとしても、自分の目は誤魔化せない。その作品をみるたび失敗点に目がゆく。気になる。なぜあのとき雑なことをしてしまったんだろうと後悔する。それではつまらない。

縫っているときは作る楽しみを味わい、完成してからは使う喜びを味わうのが縫いものの醍醐味だと思う。不手際に気がついてイラッとしたら、まずは作業をやめてお茶でもどうぞ。気持ちを落ち着けてからまた楽しく縫いましょ!