猫の歯石とり・日帰り入院体験記

猫飼いのみなさま、猫さんの歯磨きはどうしていますか?
嫌なことは断固拒否する猫さんだと、歯磨きをした方がぜったいにいいとわかっていても難しいですよね。舐めるだけである程度の歯磨き効果がみこめるというデンタルペーストもあります。わたしもそういうものを複数種類を試してみました。が、我が家のまるは決して舐めようとしませんでした。ましていわんや歯ブラシやガーゼを巻いた指をや。すごい勢いで拒絶されます。

いただいたこちらのサンプルも無駄に(涙)

猫の口からなにか落ちた

お迎えしてから3年目となる今夏、まるがシャクシャクと音を立てるようにしてしばしば口をもぐもぐするようになりました。わたしの髪の毛を食べちゃったときのような仕草で、口の中を点検するも特に何も見当たりません。
様子をみていたところ、秋のある日の朝、まるの口からぽろりとなにかが落ちました。
灰色と茶色を混ぜたみたいな色をしたブツであきらかに食べものとかではない。おそらくは歯石で、この中に歯が入ってるかもしれんと飛び上がった飼主によってまるは病院へと拉し去られたのでありました。

サランラップでくるんだブツを先生に渡し、診察をうけたところ

「歯石ですね」
「ですよね」
「右側の歯石が自然に剥がれ落ちたんでしょうね。お口を気にしていたのもそれかもしれませんね」
「奥歯の方の歯石がひどいので歯石をとるスケーリングをお願いしたいのですが」
「そうですね。まるちゃん、10歳だったらやっておいたほうがいいと思います」

というわけで、まるの歯石とりのための1日入院が決まりました。

歯石をとるのに入院?

ヒトの場合、前頭葉のおかげで、痛くても怖くてもじっと我慢して動かないでいるから30分ほどで済みます。が、ネコはそうはゆかない。全身麻酔をかけておこない、日帰り入院となります。
麻酔かけてくれるなら安心と思いますよね。ところが麻酔にはリスクが伴います。身体が小さくて代謝がヒトとは異なるネコ(しかも高齢)の場合は特にリスキーです。あまり高齢になると、麻酔しての歯石除去は身体が耐えられず、手術ができなくなってしまいます。だから10歳ぐらいまでに歯石除去(スケーリング)を済ませておいたほうがいいです。

まるは今年で10歳ですから今年か来年に受けさせておきたい。「秋になったら健康診断とスケーリングをお願いしよう」なんて考えていたら、歯石が落ちて急展開となりました。

入院・退院のスケジュール

入院から退院までのスケジュールですが、わたしが普段かかっている動物病院では下記のようになっていました。

・予約をいれる(病院によって手術に充てている曜日、時間帯が異なります)
前日〜当日
 ・ネコには絶食・絶水させる
 ・朝、入院(署名した同意書を持参)
 ・午前中に血液検査・超音波検査等検査を実施
 ・検査の結果、麻酔下でのスケーリングが可能であれば12時半から手術開始
 ・手術完了〜麻酔から回復させる時間をとり夕方に退院 

時間がかかるものなんですね。しかし慎重に猫の体を調べてもらえるのはありがたいことです。
午前中の検査の結果によっては手術は中止になる可能性があること、もし抜歯するしかない状態の歯があったら抜歯することなどについて説明を受けました。

重要事項説明書と同意書

重要事項は口頭で説明されるだけでなく書面でも渡されました。同意書もセットになっていて、麻酔をかけておこなう手術のリスク、手術中におこなう可能性のある処置、手術を中止する条件等が書いてあります。同意書は署名して当日持参します。

かかりつけの動物病院から渡された重要事項説明書のいちばん上に、こんなふうに書いてありました。

・当日は12時間の絶食、2時間の絶水にて、09時30分までに来院してください。
 胃の中に食べ物が残っていると、麻酔中に食べ物が逆流し、誤嚥性肺炎を起こす可能性があり大変危険です。

けっこう長めの絶食になります。朝から入院の場合は前日20時以降はなにも食べさせない方がよさそうです。それと、食べさせるものにも注意が必要です。

前夜は消化のいいものを

まるが朝食に食べたウェットフードを吐き戻したとき、前日の夜のドライフードまで出てきたことがありました。20時に食べたものが翌朝6時過ぎにそのままの形で出てくるとは、驚きました。
友人の猫さんはドライフードしか食べないコで、同じように歯石除去の手術前に検査を受けた時「まだフードがお腹にあるから今日はできない」と戻されたそうです。

これらのことがあったので、入院前日の夜は消化のよさそうなウェットフードをまるに与えました。(「たまの伝説」のささみにしておきました)おかげで1回の入院で無事に歯石除去手術がうけられました。

考えてみたらネコは肉食動物です。ネコの歯は噛みつく・切り裂く・食いちぎるに特化しています。ヒトの奥歯のような臼歯(きゅうし=臼の働きをする歯)はないのですから、ドライフードをよく噛んですりつぶしてから食べるような食べ方はそもそもしません。ガリガリっと噛んで飲み込んでしまうのだからそうなりますよね。

臼歯の特徴・役割

 一般的に「奥歯」と呼ばれている臼歯(きゅうし)は、「前臼歯」と「後臼歯」に分かれています。
 しかしこれらは、私たちの奥歯のように上の歯と下の歯の面がピッタリとかみ合いません。猫の臼歯は先端がとがっており、なおかつ上下の歯が前後で微妙にずれた構造になっているため、ちょうど肉切りバサミのような役割を果たします。これは猫が肉を噛みちぎることに特化した構造の歯を発達させた結果で「裂肉歯」(carnassial)などとも呼ばれます。肉だけでなく、猫草をおいしそうにシャリシャリ噛みちぎる時に用いているのもこの歯です。ちなみに上顎の「後臼歯」はほとんどお情け程度にしかついておらず、ほとんど見分けることができません。

猫の歯と口・完全ガイド~歯の本数や種類から口の中の病気まで

事前の検査で病気が判明

「検査結果がでたらお昼ごろにお電話しますね」と言われていたとおり、昼前に病院からスマホに電話がかかってきました。

「まるちゃんのおうちですか?」という表現にほっこりしつつも緊張して先生の話を聴きます。
「まるちゃん、超音波検査をしたところ肥大型心筋症だと判りました」

えっ?まるが?心臓の病気?!

青天の霹靂どころか空から巨大なハンマーが降ってきたような気分で、静かに動揺しながら説明を受けました。

肥大型心筋症とは、心臓の筋肉が内側にむかって分厚くなり(肥大)、次第に心室が狭くなって血流に障害がおこる病です。ネコの肥大型心筋症は遺伝的に高リスクの猫もいること(アメリカンショートヘア、メインクーン、ラグドールなど)、それらの未発症だが種として高リスクとわかっている状態でステージ1に分類され、まるはステージ2ということでした。下記の表のB1です。

ネコの肥大型心筋症のステージング

Stage A:心筋症の素因があるが無徴候
Stage B1:CHFやATEのリスクが低い≒左心房拡大がない~軽度
Stage B2:CHFやATEのリスクが高い≒左心房拡大が中程度~重度、左心房や左心室
収縮力の低下、著しい左心室壁の肥大など
Stage C:現在/過去のCHFやATEがある
Stage D:治療に抵抗性のCHFがある

引用元:ダクタリ動物病院「猫の肥大型心筋症(HCM)」

肥大型心筋症に治療法はない

「肥大型心筋症には治療法はありません」
「はい(ないんや…)」
「肥大型心筋症は心臓の病気ですから麻酔のリスクが高くなります。そうはいっても、まるちゃんはまだステージ2ですし、手術中に容体が急変する確率は低いと思います。手術はいかがされますか?」

病名告知から判断までめっちゃ時間短いなぁ!あわわわと心の中は激震でしたが、これも飼主の責任です。

「まるの年齢とその持病を考えたら今回が歯石除去手術の最後のチャンスになると思うので、手術をお願いします。高齢になってひどい歯肉炎になってもなにもできないのは不憫ですし、そんな状態で老後を過ごさせるのも忍びないです。だから今のリスクをとるほうがよいのではないかと思うんですが、どうでしょう」

「そうですね。わたしも同じ意見です。では手術しますね」
「お願いします」

こんな経緯がありつつも、まるは麻酔をかけての歯石除去手術を受けました。
14時に手術は無事に終わり、心臓のことがあるのでゆっくり麻酔から目覚めるように処置していただいているという連絡が夕方にありました。「18時過ぎにお迎えにきてください」ということでした。
(特に持病のない若い猫さんだったらもう少し早くにお迎えにゆけるそうです)

麻酔は覚めたが奇妙な行動がとまらない

点滴のあとの止血用テープは帰宅後1時間したらとってねといわれました

帰宅したらまるはすぐキャリーからでて、その足でトイレに入ってなみなみとおしっこしていました。動物病院ではペットシーツをキャリーに敷いてくれていましたが、我慢していたようです。かわいそうに。
その後、普段の定位置にのぼり、ペットヒーターにのってやや落ち着いたようでした。自分の足でふらつきもせずに歩きジャンプもできるようです。

よかったよかった。麻酔は醒めたんだねぇと思いきや、落ち着いたかに見えたのは一瞬で、奇妙な行動がとまりません。

やたらアクティブ

普段のまるはたいへんおとなしく寝てばかりいます。めったに高いところに飛び乗らず、ダンボールやカゴにも入りません。日中、おもちゃで激しく遊ぶことはあっても、夜中に運動会をしたり走り回ったりしません。
それなのに手術の後はなんだか妙にハイテンションで動きまわり、緊張した様子です。怯えているわけではなく、なにかに興味を惹かれて集中している感じです。

そわそわと早歩きで部屋の中を歩き回り、普段ならあまり関心を示さない押入れを「開けて!」というので開けてやると、なんども中をチェックします。そして洋室の物入れ下段を覗き込んで「なにかここにいる気がする」と5分ほど立ったり座ったりしています。これまで興味をしめしたことがないスペースにもズンズン入ってゆきます。
水の容器をのせている台に登り、うっかり水に足をつっこんで驚いた拍子に水入れをひっくりかえしてあたりを水浸しにしたときには笑ってしまいました。

いやいや、笑い事ではない。せん妄かなぁと思いつつ見守っていましたが、2時間経っても落ち着きません。どうしたんだろうか。

術後の給餌は獣医師の指示に従う

奇妙な行動もさることながら、ゴハンくれくれも復活しました。麻酔や処置の影響があるので給餌タイミングは獣医師の指示に従います。まるの場合、「20時半になったら与えてよい。ただし与える量は普段の晩ごはんの7割ぐらいにしておくように」ということでした。
チュールとやわらかいウェットフードを出したところ、いずれも完食して一安心です。口が痛くて食べられなかったらかわいそうだという心配は杞憂に終わりました。

奇妙な行動は朝まで続いた

いつものように22時過ぎに就寝したものの、まるは一晩中ピリッと緊張していてゆるんだ寝方をせず香箱を組んだままでした。
夜中に突然ロケットのようにベッドを蹴って飛び出す。興奮して走り回る。トイレに飛び込んで猫砂を盛大にほりかえす。押し入れに突入する。キッチンわきの玄関スペースをフガフガと嗅ぎ回るなど、ちょっと落ち着いたらどうですかと言いたくなるようなアクティブさでした。

獣医師からは「今日明日は目を離さないで様子をみていてください」と言われていました。だけどこんなケースは想定していません。元気すぎるようにみえるけど怪我したらいけないと思ってわたしも起きていました。
翌日仕事や車の運転があるような日には、ネコの手術の予約は入れない方がいいかもしれません。まるはやたらアクティブになるという形で薬の影響がでていましたが、どのような形で様子がおかしくなるかは不明です。なってみないとわからないわけで、見守る飼主は普段通りの睡眠時間が確保できない可能性があります。

翌朝、ふだんどおりに6時すぎに朝ごはんを2回に分けて平らげ(一度に食べさせると吐き戻すことが多いからこうしています)、日向でうとうとしはじめたところが下の画像です。

ようやくこんなふうに崩れた寝相になりました。耳もリラックスした角度になっています。やっと薬の影響が薄れてきたのでしょう。手術から2日経過した本日は、すっかりいつもどおりの動かない猫に戻っています。

まとめ

以上がまるの歯石除去手術の記録です。
体験してみないと実感できなかったことは下記のとおりです。

・猫の日帰り入院は、飼主は猫を預けた後いつもどおり過ごせるわけではない
・緊急連絡先も必要
・病院からの連絡で思わぬ判断を迫られるケースもありえる
・麻酔から覚醒するタイミングには個体差がある
・麻酔や手術の影響がどんなふうにでるかも個体差がある
・猫の様子をみるためにも翌日は仕事や用事がない日にする

参考になれば幸いです。

なお、手術前に受けた各種検査結果は、お迎え時に診察室で詳しく説明していただきました。年齢的に気になっていた腎臓の数値が意外なほどによかったのは嬉しかったです。
また、肥大型心筋症との診断のもとになった超音波検査の、画像による説明もありました。基準値より少しだけ大きな数字がでた箇所が1箇所あったことがわかり、重症ではないのでこれも少し安心しました。

費用は検査・処方された抗生物質とインターフェロンを含めて400,40円でした。まるはシニアであること、慢性化した猫風邪があることなどからペット保険に加入できていません。ペット保険に加入されている方はぜひそれをつかってください。

さよなら諭吉…お金は使うためにある!

この他に、いきなり入院・手術となったらまるはわけがわからず不安であろうと思い、事前にアニマルコミュニケーションをお願いしました。その話はまた今度書きます。