フルリモートの光と影

新型コロナウィルスの流行をきっかけに、リモートワークや在宅勤務もそれほどめずらしいことではなくなりました。
わたしの勤務先も社員全員がフルリモートで働いています。よんどころない事情が発生したときや、何かのイベントがあるときだけオフィスに集まります。それも全員ではなく、行ける人だけでよいとなっています。

リモートワークになってよかったこと・悪かったこと

リモートワークのメリットはいくつもあります。郊外の自宅から都心のオフィスまで、時間をかけて出社しなくて済むのがいちばんのメリットです。満員電車のストレスは洒落になりません。それだけでなく、1日に2時間として月に40時間もストレスフルな移動時間がなくなる。働く身としてはこれほどうれしいことはありません。
そして、化粧しなくてもいいし、服装、靴、持ち物に悩まなくていい。お弁当作りからも解放されるし、勤務時間ぎりぎりまで自分の時間として使えます。仕事しながら洗濯物がとりこめるとか、荷物がうけとれる、ちょっとした掃除ができるとかは実にありがたいです。出社していたころは、出かける前か帰宅後にしか家事はできませんでしたから。
後期高齢者の親がいる身としては、なにかあったときにすぐ動けるのもメリットです。子どものいる同僚は、習い事の送迎や通院などで離席することもよくあります。
それに、営業電話にでなくてよいというのもよかったことのひとつです。

働く立場からするとデメリットもあります。
たとえば紙の書類がなくてすべてが電子データであることで、文書チェック作業のクオリティは下がります。
また、顧客との連絡手段がメールやチャットアプリなのは、リスク管理という観点からも好ましくありません。送信ボタンを押す前には毎回どきどきしますし、送信先を指差し確認しています。

それから、シュレッダーやプリンター、Wi-Fiはわたし個人のものですので、会社にフリーライドされている感も否めません。
通信状況が悪いと通信契約をアップグレードするように会社から要求されます。しかし、会社は通信費までは負担しません。プリンターの消耗品は経費となりますが、本体は自腹で買いました。会社の経費でプリンターを買うことも可能です。が、それをすると私用では使えません。(見張られているわけではないけど、倫理的に抵抗がある)

こういうデメリットもありますが、総じて、わたしはリモートワークの恩恵を多く感じています。

リモートワークが合わない人もいる

しかし、コミュニケーションという点では、全員がフルリモート勤務なのはやはり厳しいと感じます。
ヒトのコミュニケーションは非言語(表情、仕草、声色やちょっとした間などをふくめた雰囲気そのものなど)に8割を依存しています。ChatworkやSlackなどのチャットアプリがいくら優れているとしても、基本はテキストだけのコミュニケーションです。

テキストコミュニケーション主体だと意思疎通の不全がおこり、弱い立場の者にストレスがかかる状況が生まれます。
とりわけ、裁量権の少ない立場だと、四方八方からいろんな人が同時にテキストで話しかけてくること(自分のペースで仕事ができない)や、上司や顧客の意図をテキストから汲むことに苦労して疲弊してしまいます。

例えば、業務上の質問をするとき、口頭でなら互いに気軽にやりとりできるようなことでも、テキストにすると幾重にも気を遣います。
「こんなふうに訊いたらわかりにくいかも。丁寧に説明したほうが向こうも状況がわかっていいかなぁ?」とか、「このタイミングでこう返したら大きなお世話かも。黙っておこう」とか、「あ、「はい」だけだとなんか無愛想に感じられるな」とか。
テキストコミュニケーションでは雰囲気や温度感まで伝わらないものなので、それをいかにカバーしようと常に考えてしまいます。笑顔でフォローとか、明るい声色で雰囲気を和らげるとかができないのですから。

また、同じ空間にデスクを並べているのなら、机に積み上がった包袋や書類をみて「忙しそうだからあとで声をかけよう」等お互いに配慮しあえます。が、オンラインではそこまでは見えません。相手がどんな状況にいるかが物理的にみえないのです。
それなのに、大抵の人は思いついたら即入力して送信ボタンを押します。すると、質問されたり作業を依頼されたりする側は、千本ノック状態になってへとへとになります。

リモートワークは出社しない=同じ空間に他人がいない=対人コミュニケーションのストレスがない、と考えられがちですが、実際には、こういう面でのストレスが高いものです。事実、わたしの勤める職場では入社後に数ヶ月〜1年ほどで辞めてしまう人が相次ぎましたし、休職率も高いです(わたしも休職しました)。

コミュニケーションの不在や新たな種類の煩雑さに耐える力がないと、フルリモートで長い間働くことは難しい。
だからもし、今、フルリモートで働くことに悩んでいるのなら、どんなふうに人とコミュニケーションをとりながら働くのが好きかをまず最初に考えてみてはどうでしょう。自然体に近いありようで働ける場所があるにこしたことはないですもんね。