生物化学系や人文科学系の本を読んでいると、興味深い一節に出会うたびに調べものを始めてしまったり、書かれている参考文献を探して読み始めてしまったりすることがよくあります。
最初に読んでいた本を読み進めることができなくなるパターンです。
「さらっとすごいことが書いてあるんですけど!なにこれ!どういうこと!」と興奮気味にあれこれ調べ始める体験ができる本こそ、良書だと思います。
『動物がみている世界と進化』
脱線しまくってしまうためになかなか読了できずレビューが書けないんですが、今読んでいるものがそんな良書です。
『大英自然史博物館シリーズ 4 動物がみている世界と進化』(スティーヴ・パーカー著、蟻川謙太郎監修、的場知之訳, 株式会社エクスナレッジ, 2018)
さすが大英自然史博物館。豊富な写真と図解で生き物の視覚のしくみと進化を解説してくれています。
数年前に購入し、その時は斜め読みでパラパラと読んで終わりにしてしまいました。今回、じっくり読み始めてみて、一段落ごとに驚いたり考え込んだり調べものを始めてしまったり、友達に興奮を共有しては盛り上がってしまったりしています。
日本での発行が2018年ということですが、イギリスでの原著の出版は2016年です。
そして今は2023年。この7年の間にも数々の実験と成果がレポートされていて、インターネット上でもそれらの情報の一端に触れることができます。
ちょっと検索すれば原著に書かれていること以上の事、新たにわかった事、実験で確証が得られた事などがヒットしてくることもよくあります。英語で検索すればほぼリアルタイムの情報に触れることもできるんです。
その度にまた「ひえー!」とか叫んで脱線してしまうので、全然読み進められない。
たいていそういう事柄には専門の研究者がいて、いくつもの書籍や論文があります。専門家の書いたものを読むのは素人にはハードルが高いし、正確に理解できるとも思えないことも多々ありますので、わたしは論文の抄録(アブストラクト)にあたるようにしています。その方が読む時間も短く済みます。
それでも知識の海にいちど漕ぎ出してしまったら、なかなか旅は終わりません。これこそがサイエンス系の本を読む醍醐味です。
役に立つか立たないか論争は愚か
世の中にはたくさんの専門家、研究者がいて、その人たちがこの世界の叡智や真実を詳らかにしてくれています。
一般人がその恩恵にあずかるような「すごい」発見や技術をささえているのは、たったひとりのノーベル賞受賞者ではないんですよね。何百万、何千万もの研究者が地道な研究を重ねて学術的な知の体系の基盤をつくってくれているからこそ、そういう「すごい発見」「すごい技術」が生まれるんです。
役に立つか否かで研究の価値をはかろうとするのは、浅はかで愚かなことです。100年単位の長い目でみてほしい。
たとえ数百年後には「なんてアホな学説だったんだろう」と言われるようになったとしても、そこが「なぜ」「どうして」を問う研究のスタート地点だったりするわけですから。