賃貸物件探しには気をつけろ(1)

多磨霊園のそば

人生で8回引越しを経験している。少なくともあと2回は引越しするだろう。

賃貸物件を探す際、不動産屋の担当者によって、物件探し体験がおおきく左右される。親身になってくれる担当者やこまやかな配慮の担当者にあたれば感動体験になる。が、7回目の引越しでひきあてた担当者はとんでもなかった。

こんな物件勧めちゃうんだ

猫と暮らせてそこそこの広さがあってこの地域で…と要求が多いせいで、賃貸物件探しは難航した。実際に見にいってみた物件は11軒に及んだ。不動産屋の担当者:N村くんが「この物件はどうでしょう」といくつも提案してくれて、それもぜんぶ見にいったからだ。もちろん、他の不動産屋のお世話にもなったが、N村くんは7軒ほどみつくろってくれた。

その中にはどんびきしてしまうような物件もあった。
「クリーニングがまだ終わっていなくて」といいながらN村くんが案内してくれた部屋は、クリーニング以前の問題だった。

引き戸レール、サッシの溝、床、すべてに猫の抜け毛とほこりが溜まっていた。シンクは水垢とサビだらけだしエアコンは1990年台のモデルかと思われ、もしや廃墟では?という荒れ具合だ。絶対にスリッパとマスクなしでは入れない。ここ、靴ぬぐ必要あります?と思うレベルの汚さだった。どんな暮らしをしていたらあんなに荒れるんだろう。猫は何頭飼っていたのか、多頭飼育崩壊とかしていないよね…と悪い方に想像が膨らんでしまう。

ドン引きして無口になるわたしに気づいていないのか、N村くんは特に関心もない様子で室内をぶらぶらしていた。君の目にはこの惨状がみえないのか。

ペット可賃貸物件は数が少ないうえに、猫の飼育OKとなると更に少なくなる。だから仕方がないのかもしれない。と、自分にいいきかせたものの、自分にガスライティングしてどうする。こんな状態のものを客に見せるなと一喝して終わりにすればよかった。

適当情報に振り回される

最終候補を絞ったときに、迷う点がいくつかあった。ひとつには寝室にする予定の部屋にエアコンダクト用の穴がないことで、N村くんに「ここにはエアコンのホースを出すための穴がないみたいですね」と訊いてみた。

「穴、ありますよ。クロス屋さんが入って塞いじゃっただけですぐ使えるはずです」(そんなわけあるか)
「いや…そんな痕跡なさそうですけど…クロスでふさげちゃうものですか??」
「なかったら穴あけてもらっていいですよ。大家さんもいいよって言ってくれます。大丈夫です。他のお部屋の人たちも空けて使ってますし」

N村くんは自信満々にいいきった。(大家さんに僕愛されてますアピールをちょいちょいかましてくる)確かに、他の同じ間取りの部屋をベランダ側からみると穴をあけている。ということは割と簡単に空けられるのかもしれない。
結局、エアコン用に壁に穴を開けることになった時でも大家は許可をくれるという点と、玄関の鍵をディンプルキーにしてもらうことで手を打った。

間抜けの実在に関する文献

印鑑がない

審査が通ったから本契約に来てくださいという連絡をうけ、暑い中でかけていってみたらN村くんがいない。
「N村、本日おやすみをいただいてまして」と、彼の上司にあたる人がいう。
「ではこちらへどうぞ。重要事項説明がありますので」と賃貸契約書を広げて延々と説明を受ける。

「…そうしましたらこちらに印鑑を」

えっ
印鑑。

印鑑もってこいとN村くんからのメールにはひとことも書いてなかったよ。
署名で済むようになったのかな〜なんてわたしも呑気に考えて持ってこなかったよ。
いやそうですよね、うん。印鑑必要ですよね。常識からいえばそうですよね。

「印鑑お忘れですか。そこにちょっと大きな文房具屋さんもあるけれど、お名前が珍しいから…」

はい。三文判は売ってない苗字ですのでね、こういうときは万事休すなんですわ。

というわけで仕切り直しになった。あとから考えたらこの時点でやめておけばよかった。

長くなりそうなので数回に分けます。