ムジナのブローチ

東京都小金井市にある「ムジナの庭」でおやつ

わが町、小金井市には「ムジナ坂」という坂がある。
連雀通りからはけの道へと下りる坂で、今はホームセンターの駐車場脇から細く続く階段となっている。昼なお暗い坂道で、なるほど、ムジナやタヌキがウロウロしていても不思議はない雰囲気だ。

まろん通信 Vol.3033 この景色は見納め?〜ムジナ坂〜

ちなみにムジナとはニホンアナグマのことだが、地域によってはハクビシンやタヌキなどを指す場合もある。ちょっとずんぐりして、目の周りと四肢が黒っぽいもふもふした哺乳類の総称なのかもしれない。
そのムジナにちなんだ「ムジナの庭」という就労継続支援B型事業所が、中町の金蔵院横の路地にある。

「就労継続支援B型」とは、障害や難病のある人が利用できる障害福祉サービスのひとつです。障害や年齢、体力などの理由から、一般企業などで雇用契約を結んで働くことが難しい方に対して、就労の機会や生産活動の場を提供しています。

LITALICOワークス https://works.litalico.jp/column/system/021/

今日はその「ムジナの庭」に、ムジナの木彫りのブローチを作る催しに行ってきた。

木彫りのブローチを作る

2時間で木彫りのブローチを彫って色を塗って仕上げるワークショップですよという告知をみて、興味をそそられた。わたしはアナグマが好きなので「ぬお!?」となった。
塗る工程からの参加と、彫りからの参加の二択だった。迷わず彫りからを選んで申し込んだ。

プレーンな板を渡されて型を切り出すところからのスタートかと思っていたが違った。冷静に考えればそんなわけない。あらかじめ原型を切り出した状態のものを渡されるのだ。それらも若干の個体差があり、わたしは尻尾のパーツが太くて不恰好なものを選んだ。まるみたいで既にかわいい。

彫刻刀の説明に続いて「ここは高く残し、こういうところは低く(薄く)削って立体感をつけます」という説明を受ける。

ムジナの木彫りのブローチ・制作過程
背中の方をちょっと彫ってみたところ

立体をもっと立体にする

あたい、版画が大好きだったんだよね〜という謎の自信は、開始後5分で打ち砕かれた。
版画は2次元、つまり平面に線画を彫り出す作業だ。版画は、版ではなく刷った紙=平面に作品が生まれる。だから頭の中は反転した線画を思い浮かべながら作業すればよい。

これに対して、立体をさらに立体にするという三次元のセンスが求められるのが木彫りだ。
平面に絵を描くのとはわけがちがって、ものの厚みを加工するのは難しい。しかも滅多に使わない彫刻刀というツールで挑む。ハードルだらけで笑えてくる。
こういう挑戦が楽しい…んだけれど、与えられた彫刻刀はたったの3種類だった。幅の太い平刃、中ぐらいの丸刃とやや細めの丸刃だけだ。

嘘でしょ。
これだけでどこをどう彫るんですか。

案の定、小さくて硬い木の素材の扱いがとんでもなく難しい。老眼で手元のどこにもピントが合わない。加えて立体視が苦手なおばさんはここでメガネをかなぐり捨てる。

彫るのが怖くて思い切れない

木彫りの恐ろしい点は、削りすぎたら元に戻せないことだ。
だが、おっかなびっくり彫っていたのではいつまで経っても埒が開かない。
「彫ったぜ!」って思っても大した立体感が出せず扁平なままだ。彫るとひとことで言うけれど、むずかしい。
輪郭に沿って丸みを出すためには、最初にどこまで厚みを落とすかを鉛筆でガイドラインをひく。次に、そこまで一気に平刃で削る。そしてできた段差を丸刃をつかって消してゆく。
これはわりと上手にやれたが、脚の間のお腹と首周りがむずかしすぎた。
一緒に参加していた人はもう色塗り工程に移ったのに、わたしはいつまでもちまちまいじくりまわしている。
とうとう、指導してくれる人が痺れを切らして代わりに彫ってやってくれた。なんかすみません。

脚や顔のあたりをだいぶ削ったところ

楽しい色付け

彫り終えたらざざっとやすりをかけて表面を整え(というか荒らして)、色塗りの工程だ。
最初にジェッソという下地剤を塗って真っ白にしたら、ドライヤーをかけて乾かす。次に裏面(ブローチピンがつく面)を真っ黒に塗りつぶしてこれまたドライヤーで乾かす。
そのあとは表側を塗る。アクリル絵の具は慣れ親しんだ素材なので、ここは途中からつい勝手に進めてしまった。

ムジナのブローチに色をつけたところ
お手本をいくつか見て、4色使って塗ってみたところ
普通の紙のうえで塗ったものだから、水分が裏に回って尻尾や腰のあたりにに紙がはりついてしまった

やすりで表面をざらざらにして毛並み感を出したから、リアル路線で塗るのがいいかと思ってそうしてみた。ところが塗ってみると、ブローチはデフォルメした思い切った配色ぐらいがちょうどいいぐらいだった。

あいにく、ここでもう時間切れとなってしまった。塗り直しは諦めて裏にブローチピンを接着剤でつけ、おとなしくお茶とお菓子をいただいて帰宅した。

自宅で塗り直し

お手本をみてこんな感じかなと塗ったものの…やはりわたしの求めるムジナ=ニホンアナグマらしさに欠ける。
帰宅して押し入れからアクリル絵の具を引っ張り出して手直しをした。ニホンアナグマのいちばんのチャームポイントは目の周りの黒いラインだ。ラインは頭部にまで連なるのだけど、今回のブローチの土台になるデザインではそのラインを長くひくと背中につながってしまっておかしな感じになる。難しいなぁ。

うん。可愛くなったと自画自賛している。冬に向けてむっくむくに肥えたアナグマだ。妖獣ではないので安心して欲しい。

久しぶりに木を彫って、マイ彫刻刀を懐かしく思い出した。
小学生の時に母が買ってくれたプロ用の上等な彫刻刀のセットで、わたしのお気に入りは極細の丸刃とV字のものだった。この2本で桜の板をサクサク彫り進めていると、ゾーンにすぐに入れた。常によく研いで手入れしていたから切れ味抜群で、迂闊に触るとさっくり指先が切れる。鋭利だから切って3秒ほど経ってから血がでてくる。実に素晴らしい彫刻刀であったが離婚時のゴタゴタで紛失した。

もう大人だから自分で買うかな。